2015.01.20 打敷の取材リポート

リポーター:Rachel(レイチェル)
「日本人の宗教観が気になります。」
リポーター:鍵谷 隆
「日本は宗教に対して寛容な国であり、個々の宗教を尊重します。」
カメラマン:荒川 剛
「今の時代、新築の家を設計する際に、真っ先に削られてしまうのが仏間だそうです。」
今回取材にご協力いただいた、打敷職人の百武さんです。百武さんについては「職人紹介ページ」をご確認ください。

 

愛知県愛西市にある百武打敷店

皆様こんにちは、リポーターの鍵谷です。
今回の職人Timesは打敷(うちしき)について特集します。皆さま、打敷はご存知ですか?
簡単に説明すれば、日本における仏具のひとつで、写真にもある三角形の敷物のことです。詳しくは、こちらの職人インタビューをご覧ください。

というわけで、今回は愛知県愛西市の百武打敷店にやって参りました。

 

職人 百武弓弦(ひゃくたけゆずる)さん

百武打敷店では、当主の百武さんから打敷についてや、伝統産業にまつわる話などを聞かせていただきました。こちらの職人紹介ページをご覧ください。
百武打敷店では現在10名ほどの職人をかかえており、百武さんはそれらの職人を取りまとめる現場監督の役割をしています。

 

職人の技がキラリと光る、日本刺繍の技術

仏具の装飾品として使用されてきた打敷。毎日使用するわけではなく、一般的には季節ごとの行事や、法事の時に使用される特別な物であるため、その柄も豪華で目を惹くものが多い。家紋をはじめ、龍、天女、鳳凰などのおめでたいものから、仏様にまつわる逸話の一場面を再現したものが、柄として描かれています。

 

一流の職人の証(あかし)

この写真は、デザインは違えど、どちらも鳳凰を刺繍したものです。
注目すべき点は、刺繍の「粗さ」です。左の鳳凰は、非常に細かく刺繍が施されており、まるで本物の絵のようです。逆に右の鳳凰は、刺繍が粗く、一本一本の糸が際立ってしまっています。

実は左の鳳凰は熟練した職人が作業をしたもので、右は経験が浅い新人の職人が作業をしたものなのです。百武打敷店では、職人の育成に注力しており、全ての職人さんがこのような高いレベルを目指し、技術の向上を図っているのです。

 

生命力と躍動感が溢れる金色龍

こちらの龍も百武打敷店で制作される打敷のひとつです。
全体に金があしらわれ、見た目にも豪華な装飾となっています。
この金色の秘密は…。

 

上質な絹を使用

打敷は日本刺繍とも呼ばれますが、材質の特徴として、絹糸を使用していることが挙げられます。絹とは、蚕(かいこ)の繭(まゆ)からとった動物繊維であり、古来より繊維の中で最も美しいとされています。いわゆるシルクのことです。

絹糸は美しい光沢と、滑らかな触り心地、保温性・保湿性・発散性に優れています。
その絹の繊維を何本も撚(よ)っていくことで、一本の糸にしていくのです。

 

絹糸に、高級な金をさらに巻く

先ほどの上質な絹糸に、さらに手作業で金を巻いて、金糸とするのです。
金色に染めた糸ではないのです。とても手間がかかると同時に、とても豪華なものであることがわかります。

 

こちら実際にシルク糸に金を巻いたものです。束ねてみると、その豪華さが一層引き立ちます。当然安価なものでありませんが、仏壇に金箔があしらわれることと同様に、金は極楽浄土のきらびやかな世界を表現したものです。ただ豪華にしているだけではありません。

 

特殊な技法

そうして作られた金糸は、直接下地に縫い付けていくわけではありません。
上の画像を注意してよくご覧になってください。金糸のいたるところに、赤い線が入っていることがわかるでしょうか?実は、これは金糸を固定している、止め糸なのです。
立体的で躍動感ある龍を表現するため、このような技法を用いるのです。

 

新商品の開発

打敷はもともと仏具のため、生活様式が変化している昨今、昔と比べ需要は減っています。
そこで百武さんは海外にも販路を広げようと模索しており、刺繍の技術を活かした額絵などの作品も手掛けられています。

その道のプロによって創られた刺繍の額絵は、また一味違いますね。漫画やアニメのキャラクターを作ることができたら、面白いのにな~と個人的には思いました。

 

職人の声

こちらの作業をされている職人さんは、もともと友達の紹介がきっかけとなって、打敷の刺繍を始めたとのこと。

百武打敷店では、一人一人のスキルアップを図るためにも、人材の育成にも力を入れています。入ったばかりの頃は、雲や花などの簡単な部分から始めていくそうですが、数年にわたって技術を習得し、やがて一人前の職人として仕事をこなしていくようになっていきます。

 

手掛けるものが大きくなっても一本一本糸を通していく、地道な作業は変わりません。
大きなものになれば、完成に1ヵ月を要するものも。

 

山車の装飾にも

インタビューでもお伺いしましたが、百武打敷店では、お祭りで使用される山車の装飾品も手掛けられています。華やかな祭りの日、人の背丈の何倍以上もある山車が、百武打敷店の刺繍装飾によって彩られ、街を駆け回る姿は圧巻です。日頃から打敷を制作している職人の技術力があってこそです。

 

宗教心と日本人

今回は仏具の伝統工芸、打敷を取り上げました。

私たちは今回の取材を通して、打敷は仏様を敬い、おもてなしする心が生んだ、日本人らしい文化であると感じました。また、そんな打敷を一針一針丹精込めて創る職人さん。ぜひこの伝統を未来へ残していきたいと思いました。

日本人は宗教心が薄いとも一部でいわれていますが、「バチが当たる」や「縁起が悪い」などの言葉を日常的に使用する日本人は、実際には宗教という価値観はそれぞれの心に浸透しており、取り立てて宗教というものを意識することが無いだけなのかもしれません。

今までなんとなく知っている気でいた仏教の世界。
機会があれば、ご自宅の仏間を注意深く見てみると、何か新しい発見があるかもしれませんね。

 

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