職人インタビュー

北海道の大自然の中に工房をかまえる、陶芸家の水戸美鈴さん。アンティークな印象を受ける水戸さんの作品たちは、おうちにいながら、落ち着いたカフェにいるような空間を演出をしてくれる。そんな彼女のものづくりに対する思いをうかがいました。

ーー陶芸家を目指したきっかけを教えてください

私は高校卒業後、印刷関係の仕事をしていました。いわゆる写植と呼ばれる仕事です。しかし、毎日終電に間に合わないほど働く生活が何年も続き、肉体的にも、精神的にも体調を崩してしまいました。その後もなかなか体調が良くならず、別の会社へ勤めたこともありましたが、長く続きませんでした。それでも、子供のころから手作りが好きだったので、自宅で何かモノ作りできる仕事がしたいなと、漠然と思っていて、いろんなカルチャースクールに通っていました。粘土細工だったり、家具をリメイクする講座だったり。陶芸はずっと気になっていたんですが、なかなかタイミングが無く、習う機会がなかったんですが、ある時友人の紹介で陶芸教室に通い始めたんです。その時、ただの粘土が、自分の手で形になり、それが器となり、生活の一部になる事に、とても感動したのを覚えています。私がやりたいことは「これだ!」と思いました。

ーー目標とする作家、陶芸家はいますか?

私の先生でもある、陶芸家の橋本忍さんを尊敬しています。札幌のアーケード街に、道内の作家さんの作品が販売されているギャラリーがあったのですが、お客さんとして訪れたときに、展示してあった橋本先生の作品を見て「かっこいいな」と思っていたんです。当時の私は陶芸教室に通っていましたが、どうしても趣味の範囲を抜け出せない状態が続いており、陶芸家として力をつけるためには、どうすればいいかを考えていたんです。そこで、同じように陶芸家を目指す友人と2人で、本格的に修行をするためにはどうしたらいいんだろうって悩んでいたら、やっぱり橋本先生のところだ!となりまして。2人で「陶芸家として独立したいので、教えてください」と先生の下へ押しかける形で、弟子入りさせてもらいました。

先生からは、作品づくりはもちろんですが、陶芸家として生計を立てていくにはどうしたら良いか、お客さんに覚えてもらえるような自分らしい作風をどう作っていくか、どういう風にプロモーションしていけばいいのか、陶芸家としての心構えも教わったように思います。正直、まだまだ教わったことを活かし切れていないのですが、橋本先生に出会えていなければ、今こうして陶芸家として活動することはできなかったと思います。

ーー水戸さんの作品のコンセプトやこだわりを教えてください

「おうちカフェ」をテーマに、いつもの食卓がちょっぴり華やかに見 えるような、レースやボタンをあしらった大人かわいいアンティーク風の器を作っています。今はものが溢れて、100円ショップでも器が手に入る時代ですが、「今日はお気に入りのカップで飲もう」と思っていただけるような、特別な時間を過ごせるような器を作っていきたいです。みなさまの日常に、ワクワクを届けることができたらいいなと思っています。

ーー商品のデザインはどういったときに思いつかれるのでしょうか

自分で「こういう器を使いたい」と思った時に、ふと頭に浮かんだり、雑貨屋さんやカフェで器を見たときに、使いやすそうなサイズや形だなと思って参考にすることもあります。珈琲のプロフェッショナルや、パティシエさんと仲良くなる機会もあって、実際に器を使う方からのアドバイスで作る事も増えました。

私が作る珈琲ドリッパーは、知り合いのカフェオーナーさんに「作家もので、きちんとおいしい珈琲が落とせるドリッパーがあまり無いので、作ってみては?」とご提案いただき、試作品を作ってはドリップの実験をして頂いて、何度も修正しながら作りました。私がいちばん気をつけているのは「かわいくて、しかも実用的」という事です。自分で何度も使ってみたり、専門家にお伺いをたててみたり、カップの持ち具合だったり、指の角度も考慮して作陶しています。

ーー今まで陶芸家として活動する中で、印象的なエピソードがあれば教えてください

初めて結婚式の引き出物として、たくさんのリムプレートを注文してくださった、ご夫婦はとても思い出深いです。結婚式という人生の一大イベントに携わることですし、同じものをまとまった数作ること自体、当時はじめてだったこともあって、ものすごいプレッシャーと不安がありました。

なんとか無事納品することができたのですが、それから約1年後、ご夫婦が北海道旅行に行くので是非会いに行きたいと言ってくださり、わざわざ田舎の我が家まで来てくださったのです!お話を聞けば聞くほど、とても素敵なご夫婦で、本当に素晴らしい仕事ができて良かったと、感激しました。

また、さらにビックリなこともありました。私はDIYも大好きで、伊波英吉さんという、エイジング加工の家具作家さんを尊敬しているんですが、なんと偶然にも、そのご夫婦と伊波さんがお友達で、引き出物のお皿が伊波さんの手に渡っていたんです。そして「エイジング加工の家具と雑貨」という本の中の1ページに、私の作品が伊波さんの作品(テーブル)の上に置かれている写真が掲載されているとお知らせをいただき、「これは本当に奇跡だな」と思いました。

ーー陶芸家をやっていて一番喜びを感じる瞬間はどんなときですか?

イベントや展示会で、お客さんと直接お話して販売できるのがとても楽しいです。お客さんが嬉しそうに悩んで、選んだ器を私に「これ下さい!」と、手渡してくれる瞬間が、とても嬉しいです!最近、「○○というお店に置いてますよね? すぐ分かりました!」とか、「お友達から器をいただいたんですが、他にも揃えたくて」と、来てくださる方がいて、続けてきて良かったと思います。

ーー逆に、一番難しい、苦労するところはありますか?

電気窯で酸化焼成という炎を使わない、シンプルな焼き方をしているのですが、私の器の特徴であるアンティークの風合いを表現するために、粘土で成形してから焼くまでの全ての工程で、たくさんの仕掛けを施しています。錆を出すために、テクスチャをつけたり、レースをつけたり、粗をつけたり、釉薬を塗り、スポンジで剥がしたり…。そのため、一つ一つにものすごく時間と手間が費やされるため、作品がたくさん作れないのが悩みでもあります。それでもやっぱりこの風合いが好きだし、「こういう作風は他では見た事がない」と言って下さる お客さんもいらっしゃるので、頑張ろうと思えます。また、定番の商品を求められることも多く、新たに作りたいモノになかなか手を出せないこともあるので、このあたりは悩みますね。

ーー職人タイムズをご覧の皆様へメッセージをお願いします

食事は毎日のことなので、それが手作りのお気に入りの器だったりすると、気持ちも味も違ってくると感じています。お料理を盛る楽しさ、食卓に並べる楽しさ、家族やお友達をもてなす楽しさ。私の器も、それぞれの生活の中に自然にとけ込んで、そっと楽しい気持ちを運べたら良いなと思います。

プロフィール

水戸美鈴 -MIZUTO MISUZU-

北海道共和町在住。北海道の大自然の中に工房を構え、おうちカフェをテーマの作品を手掛ける女性陶芸家。アンティーク調の大人かわいい作風が、女性を中心に注目を集めている。2013年に ニューヨーク・マンハッタンで開催された「現代茶湯」を紹介するイベント「Contemporary Chanoyu exhibition」に出品。2014年「おやつのうつわ展(美鈴硝子さん、パティスリー・ラ・ネージュさんとの3人展)」を開催。